メディア

コンプライアンス求人は本当に「法務経験者向け」なのか?

コンプライアンス求人は本当に「法務経験者向け」なのか?

目次

「コンプライアンス職に興味があるけれど、法務経験がないと難しいのでは」

そう考えて、求人を見ることすら躊躇している方がいるかもしれません。確かに、コンプライアンスという言葉からは「法律の専門家」というイメージが浮かびます。

しかし、本当にそうでしょうか。コンプライアンス職の求人を詳しく見ていくと、必ずしも法務経験だけが求められているわけではないことが分かります。

コンプライアンス職の平均年収は約733万円と高水準であり、シニアクラスでは1,500万〜3,000万円の求人も存在します。需要が高まっているこの領域で、どのような人材が求められているのか。固定観念を外して考えてみましょう。

出典:Indeed

コンプライアンス職に対する誤解を解く

コンプライアンス職について、いくつかの誤解が広まっています。まずはそれを整理してみましょう。

誤解1:法律の専門知識が必須

コンプライアンスは「法令遵守」と訳されることが多いため、法律の専門家でなければ務まらないと思われがちです。しかし、実際の業務は法律の解釈だけではありません。社内ルールの整備、研修の企画・実施、リスクの洗い出しと対策立案など、幅広い業務が含まれます。

法律知識は確かに役立ちますが、それ以上に重要なのは「ルールを現場に落とし込む力」です。法務部門が法律を解釈し、コンプライアンス部門がそれを実務に適用するという役割分担をしている企業も少なくありません。

誤解2:金融業界でしか需要がない

コンプライアンス職というと金融機関のイメージが強いかもしれません。確かに金融業界では規制が厳しく、専門人材の需要は高い傾向にあります。しかし、製造業、IT、ヘルスケアなど、あらゆる業界でコンプライアンス体制の強化が進んでいます。

個人情報保護、ハラスメント防止、サプライチェーンの透明性など、業界を問わず対応すべき課題が増えているのです。

誤解3:キャリアの行き止まりになる

「コンプライアンスは専門職だから、そこから先のキャリアがない」と考える方もいます。しかし、これも誤解です。コンプライアンスで培った経験は、経営企画、リスク管理、内部監査など、さまざまな領域に展開できます。経営に近いポジションへのステップアップも十分に可能です。

なぜ今、コンプライアンス人材の需要が高まっているのか

コンプライアンス人材の需要が高まっている背景には、いくつかの構造的な要因があります。

規制環境の複雑化

国内外の規制は年々複雑化しています。AML(アンチマネーロンダリング)、GDPR、内部統制報告制度など、企業が対応すべき領域は拡大し続けています。金融・外資系企業では、AMLやFinCrime(金融犯罪対策)など高度なコンプライアンス領域での求人が増加傾向にあります。

出典:Hays

企業不祥事への社会的関心の高まり

データ漏洩、品質偽装、ハラスメント問題など、企業不祥事が報道されるたびに、コンプライアンス体制の重要性が再認識されます。「問題が起きてから対応する」のではなく、「未然に防ぐ」体制を構築できる人材が求められています。

グローバル化への対応

海外展開する企業にとって、各国の規制に対応することは避けて通れません。日本国内だけでなく、海外の規制動向にも精通した人材の需要は高まっています。そのため、年収600万〜1,500万円以上の求人が多く存在し、マネージャークラスでは1,000万〜2,000万円の案件も珍しくありません。

出典:Michael Page

コンプライアンス求人で見落としがちな評価ポイント

コンプライアンス職の求人を見るとき、多くの方は「必要な資格」や「法務経験の有無」に目が行きがちです。しかし、企業が本当に評価しているポイントは、それだけではありません。

現場との調整力・コミュニケーション能力

コンプライアンスは、ルールを作るだけでは機能しません。現場に浸透させ、実際に守られる仕組みを作る必要があります。そのためには、現場の事情を理解し、納得感のある形でルールを落とし込む調整力が不可欠です。

営業、企画、オペレーションなど、現場経験を持つ人材がコンプライアンス職で活躍しているケースは少なくありません。「現場を知っている」ことが強みになるのです。

リスク感度と先回りする思考

問題が起きてから対応するのではなく、リスクを先回りして察知し、対策を講じる姿勢が求められます。これは法律知識とは別の能力です。事業部門での経験を通じてリスク感度を磨いてきた人材は、コンプライアンス職でもその力を発揮できます。

変化への適応力

規制環境は常に変化しています。新しいルールが導入されれば、それに対応した体制を素早く構築しなければなりません。「決まったことを粛々とやる」よりも、「変化に対応して仕組みを作り変える」姿勢が評価されます。

これらのポイントを踏まえると、法務経験がなくても評価される要素は十分にあることが分かります。

コンプライアンス職のキャリアはどこに向かうのか

コンプライアンス職に就いた後、どのようなキャリアパスがあるのでしょうか。

コンプライアンスの専門性を深める

AML、データプライバシー、サステナビリティなど、特定領域の専門家としてキャリアを築く道があります。専門性が高まるほど、市場価値も上がります。シニアクラスでは年収1,500万〜3,000万円に達する求人もあり、専門性への投資は報われる可能性があります。

マネジメントへの昇進

コンプライアンス部門のマネージャー、部長、さらにはCCO(Chief Compliance Officer)へとステップアップする道です。経営に近いポジションで、企業全体のリスク管理を担うことになります。

隣接領域への展開

内部監査、リスク管理、経営企画など、コンプライアンスで培った経験を活かせる領域は多くあります。特に、内部統制やガバナンスに関わった経験は、経営企画や事業開発においても評価されます。

事業会社への転身

コンサルティングファームや金融機関でコンプライアンス経験を積んだ後、事業会社のコンプライアンス責任者として転職するケースもあります。事業会社では、より経営に近い立場で仕事ができることが魅力です。

コンプライアンス職は決してキャリアの行き止まりではありません。むしろ、経営の根幹に関わる領域として、キャリアの選択肢は広がっています。

まとめ

コンプライアンス求人について、視点を整理します。

  • コンプライアンス職は法務経験者だけのものではない
  • 需要が高まっている背景には、規制の複雑化、不祥事への関心、グローバル化がある
  • 企業が評価するのは、現場との調整力、リスク感度、変化への適応力
  • コンプライアンス職のキャリアは専門深化、マネジメント、隣接領域へと展開できる

「法務経験がないから無理」と決めつけるのは、もったいないことかもしれません。自分の経験がコンプライアンス領域でどう活かせるか、一度考えてみてはいかがでしょうか。

記事監修者:渡辺 貴明

メルセネール株式会社取締役。東京工業大学工学部卒業。大学卒業後、独立系コンサルティングファームにて製造業のクライアントを中心に業務改革支援に従事。その後、アビームコンサルティング株式会社の戦略部門に転じ、経営戦略・事業戦略策定やM&A、新規事業開発、組織/人材開発に従事。メルセネール株式会社では事業責任者を務める。

関連記事