会計士が「転職を考える理由」は本当に転職で解決するのか?
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監査法人で働く会計士の多くが、一度は転職を考えるのではないでしょうか。繁忙期の長時間労働、クライアントワークの精神的負荷、キャリアの先が見えない閉塞感。こうした不満や不安を抱えたとき、「転職」という選択肢が頭をよぎるのは自然なことです。
会計士の転職理由を見ると、 「スキルアップ」が30.8% で最多となっています。キャリアチェンジ、残業の多さ、会社の将来性への不安なども上位に挙がっています。
出典:MS-Japan
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみてください。「スキルアップしたい」という理由は、本当に転職でしか解決できないのでしょうか。
監査法人の中でも、部門異動やプロジェクトの選び方次第で、新しいスキルを身につける機会はあります。アドバイザリー部門への異動、海外駐在、IPO支援への参画。監査法人という環境の中で、キャリアを広げる道は残されていないでしょうか。
もちろん、監査法人では得られない経験があることも事実です。しかし、「転職すれば何かが変わる」という漠然とした期待だけで動くと、転職先でも同じ不満を抱えることになりかねません。
転職を考える前に、まず問うべきは「その不満は転職でしか解決できないのか」という点ではないでしょうか。
監査法人から出ることのメリット・デメリットを正しく理解しているか?
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会計士の転職決定者の勤務先を見ると、 インハウス(企業内会計・財務等)が63.9% 、 監査法人が15.7% 、 会計事務所が14.5% となっています。
出典:MS-Japan
約6割以上が事業会社に転職しているという事実は、監査法人から出ることがメジャーな選択肢であることを示しています。しかし、それが「正解」かどうかは、また別の話です。
監査法人から出ることのメリット
事業会社に転職すれば、クライアントワークから解放され、一つの事業にじっくり向き合えます。経営に近い立場で意思決定に関わる機会も増えるでしょう。ワークライフバランスが改善されるケースも多いと言われています。
また、監査という「第三者の視点」から、「当事者の視点」へと立場が変わることで、ビジネスの理解が深まるというメリットもあります。
見落とされがちなデメリット
一方で、見落とされがちなデメリットもあります。
まず、年収についてです。公認会計士の平均年収は 約922万円 とされていますが、転職市場での求人の想定年収平均は 約779万円 、最も多い年収帯は 600万〜799万円(34.0%) です。
つまり、転職によって年収が下がる可能性は十分にあります。特に、監査法人でシニアマネージャー以上のポジションにいる場合、同等の年収を事業会社で得るのは簡単ではありません。
また、専門性の希薄化というリスクもあります。事業会社では、監査や会計の専門家としてではなく、「社内の一員」として幅広い業務を求められることがあります。会計士としての専門性を深めたい方にとっては、物足りなさを感じる可能性もあるでしょう。
監査法人から出ることのメリットばかりに目を向けていないか。デメリットも正しく理解したうえで判断できているか。この問いに向き合うことが重要です。
会計士の転職市場で見落とされがちな選択肢とは?
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会計士の転職というと、「監査法人を辞めて事業会社へ」というイメージが強いかもしれません。しかし、転職市場には、見落とされがちな選択肢も存在します。
選択肢1:監査法人間の転職
転職決定者の15.7%は、転職先として監査法人を選んでいます。Big4から中堅監査法人へ、あるいはその逆。監査法人間の転職は、監査という専門性を維持しながら、環境を変えるという選択肢です。
「監査法人が嫌」なのか、「今の監査法人が合わない」のか。この違いを見極めることで、選択肢は変わってきます。
選択肢2:会計事務所・税理士法人
転職決定者の14.5%は会計事務所を選んでいます。税務やコンサルティングに軸足を移し、中小企業の経営支援に携わる道です。監査とは異なる専門性を身につけられる一方、クライアントワークという点では監査法人と共通する部分もあります。
選択肢3:FAS・コンサルティングファーム
M&Aアドバイザリーやデューデリジェンス、バリュエーションなど、会計士のスキルを活かせるコンサルティング領域も選択肢の一つです。ただし、求人における未経験OK求人は わずか6.5% にとどまり、高い専門性と実務経験が求められる傾向にあります。
出典:MS-Japan
選択肢4:インハウスでも「どのポジションか」で大きく異なる
インハウス求人が 67.8% を占める会計士の転職市場ですが、一口にインハウスと言っても、ポジションは様々です。経理・財務の実務担当なのか、CFO候補としての採用なのか、経営企画やIR担当なのか。
求人のうちマネジメント業務ありは 15.2% にとどまります。つまり、多くの求人は実務担当としての採用であり、「経営に近い立場で働ける」というイメージとは異なる可能性があります。
自分が何を求めているのかを明確にしないまま「インハウスに行きたい」と考えていると、入社後にギャップを感じることになりかねません。
転職を決める前に問うべき本質的な問い
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ここまで読んで、「結局、転職すべきなのか、すべきでないのか」と思った方もいるかもしれません。しかし、その問いに対する正解は、人によって異なります。重要なのは、転職を決める前に、本質的な問いに向き合うことです。
問い1:何を手に入れたいのか
転職によって何を手に入れたいのでしょうか。スキルアップなのか、ワークライフバランスなのか、年収アップなのか、やりがいなのか。すべてを同時に手に入れるのは難しいかもしれません。優先順位を明確にすることで、選ぶべき転職先が見えてきます。
問い2:何を手放せるのか
転職には、必ず何かを手放す覚悟が伴います。監査法人のブランド、培った人間関係、慣れた業務、場合によっては年収。手放すものを受け入れられるかどうか。この問いに向き合わずに転職すると、後悔することになりかねません。
問い3:「今の不満」は環境の問題か、自分の問題か
働き方への不満、キャリアへの焦り、人間関係のストレス。これらは環境を変えれば解決するものでしょうか。それとも、どこに行っても付いてくる、自分自身の課題でしょうか。この見極めを誤ると、転職先でも同じ壁にぶつかることになります。
問い4:5年後、どうなっていたいのか
目の前の不満を解消することだけを考えていないでしょうか。5年後、10年後、どんなキャリアを歩んでいたいのか。その姿から逆算したとき、今の転職は正しい選択と言えるでしょうか。
これらの問いに対する答えは、他人には出せません。自分自身と向き合い、考え抜くしかないのです。
まとめ
会計士の転職について、いくつかの視点から問い直してきました。押さえておきたいポイントを整理します。
- 転職理由の最多は「スキルアップ」だが、それは転職でしか実現できないのか問い直す価値がある
- 監査法人から出ることにはメリットもあるが、年収低下や専門性の希薄化といったデメリットも存在する
- インハウス以外にも、監査法人間の転職、会計事務所、FASなど複数の選択肢がある
- 転職を決める前に「何を手に入れ、何を手放すのか」を明確にすることが重要
会計士の転職は、「監査法人の外に出ること」だけが正解ではありません。重要なのは、自分が何を求めているのかを明確にし、その実現に最適な道を選ぶことです。転職が正解かもしれないし、今の環境で頑張ることが正解かもしれない。その答えは、自分自身の中にしかありません。
そして、自分の志向を明確にしたうえで転職を考えるなら、視野を広げてみることも大切です。 メルセネール株式会社取締役。東京工業大学工学部卒業。大学卒業後、独立系コンサルティングファームにて製造業のクライアントを中心に業務改革支援に従事。その後、アビームコンサルティング株式会社の戦略部門に転じ、経営戦略・事業戦略策定やM&A、新規事業開発、組織/人材開発に従事。メルセネール株式会社では事業責任者を務める。記事監修者:渡辺 貴明
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